嫌われ松子の一生

先日テレビ放送された「下妻物語」を観たらあまりに面白かったので、同じ中島哲也監督の新作「嫌われ松子の一生」にも俄然興味がわき、この週末観て来た。

「松子」はストーリー自体がどこまでも悲惨なので、「下妻」みたいにスッキリ爽快というわけにはいかないけれど、それでも面白かった!ミュージカル仕立ての部分はテレビの宣伝番組などで見ていたし、「下妻」で中島監督の手法は分かっていたからある程度は想像していたけど、期待以上だったかも。

とにかく映像と音楽の使い方が凄い。ミュージカル風ではあるけど歌ってばっかりというわけでもなく、場面転換するときとか、まともに状況説明すると冗長になりそうなところを歌で表現していて、音楽を効果的に使っていると思った。

あの色鮮やかな映像はまるでディズニー映画みたい!と思ったら、本当にそれを狙って作ったそうだ(パンフレットより)。普通にやったら悲惨でたまらない話も、ファンタジーとして描くことでこうも面白くなるものかと感心した。いや実際、転落人生もあそこまでいけばある意味ファンタジーだよなあ。

とはいえ万人受けする映画ではないとも思う。正直、途中で飽きてきたなあと思った部分があったし、ラストも少々長すぎる。

でも、意外にも泣ける場面や、生きることの意味を考えさせられるところもあって、やはりただのドタバタ映画とは一線を画していると思った。

役者陣については、主演の中谷美紀はまさに体当たりの演技!監督に怒鳴られ続けて、女優を続ける自信をなくすところまで追い込まれたそうだが、あそこまで演じられればもう十分だって。女優魂を感じましたよ。

他の登場人物も、どれもこれも絶妙のキャスティングだった。中でも特に印象に残ったのは、松子の唯一の友人・めぐみを演じた黒沢あすか。この女優さんは初めて知ったんだけど、すごく存在感があった。瑛太と話すシーンの女社長ぶりがあまりに板についていて、素晴らしかった。

さて、以下は細かい感想。ネタバレしてますのでご注意を。

  • 松子の、ひょっとこみたいな表情の意味を知ったら、なんか笑うより切なくなってしまった。男運が悪い女性って、父親との関係がうまくいかなかったことが影響していると何かで聞いたことがある。松子はまさにその典型的なパターンなのかもしれない。
  • トルコ嬢になって稼いだお金を返しに実家へ来たとき、亡き父がつけていた日記を読んで、出奔した松子を最期まで気にかけていたことを知った場面に泣けた。
  • 刑務所の食事に出てきたパンケーキを見て、子供の頃に初めて父と2人で食事したときに食べたパンケーキのことを思い出して涙を流す場面にも泣けた。
  • 笙(瑛太)の着ていたTシャツのよれよれっぷりがツボ。もうこれだけで、笙の生活が分かるってものだ。
  • 随所に出てくる片平なぎさに爆笑!
  • タニショーほど、歯が光る男の役が似合う人もいないだろう。
  • 八女川(クドカン)が電車に轢かれるシーンがものすごくリアル!
  • 「それはもう、実にしょぼくれた男で」って、荒川良々の顔が出てくるところに吹いた。
  • 香川照之って中谷美紀よりずっと年上なのね。それなのに弟役。でも観ている間ちっとも気づかなかった。さすがだ。
  • 「人の価値って、人に何をしてもらったかじゃなくて、人に何をしてあげたかだよね」という台詞と、「神は愛である」という言葉が、松子の全てを現している。
  • 醜く太って異臭を放つ松子を演じた中谷美紀には脱帽。ただ難を言えば、顔が太っていなかったことと、あまり50代には見えなかったことが残念。ボサボサの髪で顔を隠していたけど、そこは特殊メイクでなんとかしてほしかったな。
  • 松子が引きこもり生活に入ってしまって、テンションが下がったな~と思ったところへ光GENJI登場で大爆笑!うまいなあ。しかも内海くん。なんで内海くん?昔、友達が内海くんの追っかけやってたことを思い出してしまって、よけいに可笑しかった。
  • 松子の死の真相は衝撃的。川原に少年たちがいるのを見たときは嫌~な予感がした。しかも、いかにも悪そうなヤンキーじゃなくて、普通の中学生が無邪気に殴るという描き方がかえって恐ろしかった。
  • ラストは長すぎると思ったが、「まげてのばして」を登場人物みんなで歌っていくところはちょっと不思議な感動を覚えてしまった。