野ブタ。をプロデュース 第9話

9話のタイトルが「別れても友達」だと知って、リアルタイムで見るのがなんとなく怖かったので、わざわざ30分くらいずらして追っかけ再生で観たヘタレな私です。しかも冒頭のモノローグで修二が「道を間違えた」なんて言うから、もうその先観るのやめようかと思っちゃったよ!

いやー、しかしそんな心配はいらなかった。このドラマは、こっちの予想なんかはるかに超えていく。「悪い予感」も忘れるほどの思いがけない展開にぐいぐい引き込まれた。

今回、予想もしなかった場面が3箇所もあって、そのたびに「ええー、そうくるか!」とビックリしてしまった。ひとつは、信子が自らカスミの正体に気がつき、カスミもアッサリ白状してしまった場面。もうひとつは、4人が同じ夢を見てその場所に駆けつけたら人型の跡が出来ていた場面。そして最後は、「あのクラスでもう一回桐谷修二を作る」と宣言した途端に決まった父の転勤。

残り2話かけて悪意との戦いを描くのかと思って覚悟していたのに、まるで最終回かのように決着がついちゃって、アレレあと1話何やるの?と思ったら「転勤」ときたよ。やっぱり修二は転校してしまうのねー。原作(読んでないけど、オチは知ってる)とはまるで方向性が違うけど、それはやはり避けられない展開なのか。

前回、カスミの悪意は一体どこからくるのか?と思ったんだけど、信子に語った動機は嫉妬や嫌悪感という意外に分かりやすいもので、ちょっと拍子抜けした。家までやって来たカスミに対して「何考えてるか分からないコイツが、怖い」とか、屋上で「俺は、怖くて仕方なかった」と修二が語ったときはマジで怖かったんだけどねえ。何のことはない、結局カスミも孤独で寂しい人間だったってことか。表現の仕方が違うだけで、修二とカスミは基本的に同じタイプなのだ。それに気がついたら、あれだけ憎たらしかったカスミがなぜかかわいそうに思えてしまった。

で、今回のテーマは「戻る」だったのかな。信子は修二や彰やクラスの皆の呼びかけで学校に戻り、修二はビデオレターを作ったことで皆との仲が戻り、カスミは「取り返しのつかない場所」から戻ってきた。ついでに言うと、豆腐屋のおじさんも横山先生も「戻ってきた」わけで、相変わらず脇のエピソードまでしっかりつながっていることに感心する。

信子はカスミのことを「許せない」と言ったけど、あの人型の跡を見たときカスミの手を握って「生きてて良かった」と言ったのを見て、きっとカスミのことを許したのだろうと思った。また1つ、信子は成長したに違いない。

そしてカスミのほうも何か感じるものがあったんでしょう。修二が信子の成長とともに変わっていったのと同じように、カスミもこれで何かを乗り越えたんではないかな。教頭と会話したときのカスミの表情からそんなことを思った。

それから、修二もまた山場を乗り越えた。修二が信子のために勇気を振り絞ってクラスの皆に協力をお願いしたこと、それが結果的に修二を孤立から救ったことは、ちょっと感動ものだった。最初に応えたのがタニだったことも心温まる。あのビデオレターは妙に学園ドラマっぽかったけど、結局人の心を動かすのはこういうベタなものなのかもしれない、と思ったら逆にリアルに見えた。なるほど、「人を助けられるのは、人だけなのかもしれない」というわけか。

それにしても、4人が同じ夢を見たのはおもしろかったなー。あれはきっとブタのお守りの力なんだよね?普通だったらそんなバカなって思うところだけど、このドラマでは「猿の手」や「OBの生霊」「ホントおじさん」「不気味な笑い声の九官鳥」など、今までに何度も不思議なものが登場しているので、こういうファンタジックな展開にまったく違和感がなかった。ホント、小道具の使い方が上手いよなあ。

さて、このドラマもあと1話で終わり。悪意との戦いも終わったし、3人の友情も確立したところで、どういう風に終わらせるのか?さっぱり想像つかない。終わってしまうのは寂しいけど、最終回を見るのは楽しみだ。

以下は細かいところ。

  • 例のブタのお守りを彰と信子に渡す修二。何のお守りかと聞かれて、「友情」と言ったときの、口もとが引きつったような照れ笑いがツボだった。「俺が買ってきたんじゃないから。うちのお母さんが勝手に送ってきただけだから」と何度も言うのがおっかしー。
  • カスミが犯人と知って「ぶっとばして来ます」と言った彰が、というか山Pが、なぜか香取慎吾に見えてしまうのは気のせい?
  • 「またなんも信じない野ブタに戻っちゃうのかなあって」そうでした。信子は最初、いじめや義理父とのトラウマから、何かを信じることを頑なに否定していたんだった。わあ、それなのに8話では修二を信じるという選択ができたのは、改めて凄いことだったんだと今頃気がついた。
  • カスミに対しては「コン」じゃなくて「ワン」と言ったところに、彰の警戒心とか敵意が表れていておもしろい。
  • 「口の中が、薩長連合」どんな味だよ!
  • 豆腐屋のおじさんが温泉旅館の女将の話をしたとき、こりゃ絶対壺か健康食品か何か売りつけられるというオチだろうなーと思ったら本当にその通りで、爆笑した。
  • 「けっコン!するの?」新しいー。新しいバージョンだ!
  • カスミのアドバイス通り、髪を結んでスカートを短くした信子は、確かにかわいかったよ。だけどただ今風の女子高生になっただけで、信子らしさは消されてしまったのね。そして話し方も普通にしてみたら、お昼の突撃レポートは途端につまらなくなってしまった。カスミはそこまで読んでいたわけだ。恐るべし悪のプロデューサー。ある意味これも才能?
  • 「元に戻したい」と言った信子に対して「プロデュースっていうのは、こういうことでしょ?自分じゃない自分を演出するんだから」というカスミの意見は、今までの修二の考え方そのものだ。しかし今の修二は「我慢したり、辛抱したりしてるから、人に優しくできない嫌な人間ができるんじゃないの?」と言ってしまうのがおもしろい。ガキで結構、と今までの修二なら絶対言わなかったようなことを堂々と言うのに、修二も変わったんだなーと思った。
  • 彰にしつこく写真を見せようとするカスミ。しかし彰は取り合わない。「なんでまだ桐谷君たちと付き合えるわけ?」と聞かれた彰の答えが爽快だった。「毎日楽しいのが大事でしょ。だから俺はそっちを取ったのー」
  • そして彰の名言は続く。「人は試すものじゃないよ」「試すものじゃないなら、何するものなの?」「育てるものだよ。愛をもって(振り付き)」
  • あー。世の中には自分と違う価値観の人間がいるってことを、カスミも気がつくのかな?と思った。
  • ペンキがついたカスミのポーチ!これを見た信子はビックリしただろうけど、こっちも驚いたよ。まさかそこでバレるとは。しかも番組開始20分ぐらいで。展開早!
  • かすれる声で必死に問いただす信子と、その問いに淡々と答えるカスミのやり取りが本当に上手くて、引き込まれた。
  • 信子のピンチに現れた救世主のようなまり子。カスミに修二のことを言われても「それがどうした」と言ってしまえる強いまり子。泣き崩れる信子の頬に紙袋を当てて「焼き栗」と言う優しいまり子。惚れそうだ。ていうか、これって彰と同じニオイがするよ!
  • このとき信子を慰めたのがまり子だったというのはとても良かった。嘘をつかれていたという悲しみは、まり子にしか分からない気持ちだから。一緒に焼き栗を食べる(というか食べさせる)図がまたすごく良くて。信子は、どうせならまり子と友達になったらいいのに。
  • それでも信子のショックは癒えないくらい大きかったらしく、殻に閉じこもってしまった。修二の心配的中。そりゃそうだ、今までに遭ったどんなイジメよりも辛い出来事だったに違いないよ。
  • 忘年会で酔って校長に辞表を叩きつけた横山先生。辞表が例の詩集風なのに笑った。「受理」されちゃってるし。しかしこのネタも最後に回収されるんだもんなー、見事だよ。
  • まり子が修二に言った、「本当のことを受け入れるのって、すごく辛いけど、できないことじゃないから」は、きっと修二の残酷な告白に対するメッセージでもあったはず。しかしこんなにいい子なのに、修二がこの先まり子を好きになる可能性は1%もないのかと、やっぱり考えてしまう。
  • 信子の家のドアをノックする彰の「コン、コン、コン、こういうとき使う、コン」に爆笑。シリアスなシーンなのに!
  • 信子に届けられたビデオを見て、感動しちまった。そして笑った。チエがブンタに弁当作ってるのが判明したことも、バンドーの「小谷出せよ、小谷」やディスティニーの「カムバーック(噛むバッグ)」も、可笑しいやら泣けるやら。
  • 信子が戻ってきたことを喜ぶ同級生たちと一緒に、カスミが拍手で信子を迎える。その瞬間、暗闇に信子とカスミが浮かぶ、という演出が怖かった。ホラーですか!
  • 夢だったけど、「嫌な思い出でもいいから、あたしが居たこと、覚えててほしい」とカスミが言ったことは、きっとカスミの本心なんだろう。目覚めたカスミが泣いていたのは、自分でも知らなかった本心に気がついたからなのか。
  • みんなが一生懸命偽造した嘆願書を、校長先生は2、3ページめくってみただけであっさり認めてくれたのに笑った。
  • 「俺がプロデュースしてやるよ、ティン」「そんなのお断り、ティン」もうすっかり彰のペースになじんじゃってる修二が楽しい。

楽しい3人の時間はもうすぐ終わりに近づいている。思えばこのドラマ、屋上から見える空がすごく青くて広くていつも印象的だった。それは、「旅立つ日のきれいな空」というエンディングの歌詞にリンクしているんだろうなーと改めて思った。